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それはそうだろう。初孫を彼女の心変わりで見ず知らずの男に奪われたのだから。
血は繋がっていても、もう実子ではないと思っているところに、あちらから『会わせてやる』と言わんばかりの連絡に、館野一尉の両親もご立腹らしい。
「連絡してきた理由が五歳になった息子が『自衛隊が大好きになって、自衛隊さんに会いたい』と言っているらしいんですよ。ほんとうなのかどうかと思っていましてね」
「五歳の男の子だと、乗り物や警察、消防などかっこいいと夢中になる時期ですよね。兄の子供がそうですから。自衛隊がかっこいいと思う時期でもあると思いますよ。ほんとうに自衛官大好きな男の子なら、それはお父さんと自然に会う機会だとも言えますよね」
「そうなんですよね~。どうしようかと思っています」
寿々花はなんと言ってよいのかわからない。
話は聞けるけれど、気の利いたアドバイスも、彼の心が楽になる判断もできない。
「もうすぐ駐屯地の記念日、一般公開日があります。その時に連れてくるとか言っているんです」
「もう日がないじゃないですか」
つまり決断を迫られているということらしい。
「ここ2、3日が決断どころだと思っています」
いつまでも迷わず、気持ちの整理をつけるための期間を区切っているメンタルさえも、訓練されてできあがっているようにも思えた。自己管理というもののひとつなのだろう。
一尉の動揺も落ち着いたのか、優しい横顔で、またヨキを撫でてくれる。
「ほっとしますね。ワンちゃんとお散歩している寿々花さんとお話するのは」
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