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「そうなんですか。なんといいますか、偶然が重なってですよね」
「ヨキ君に導かれてとも言いますかね」
一度離れた心を繋ぎ直してくれたのは、確かにヨキかもしれなかった。
「ヨキ君に毒気を抜かれたいいましたけれど。伊藤家の朝ご飯と、陸将補ご夫妻の姿にも毒気を抜かれましたね」
「父と母にですか」
「陸将補にまでなられた優秀なお父様が、エプロンをして食事の支度をしていたんですよ。男のこだわりも自信満々にして楽しそうに。お父様も単身赴任をされているから、家事に子育てを手伝うなど余裕がない時期もあって、自衛官という仕事に邁進するほどに、ご家庭を顧みない日々もあったと思うんですよ。いまになって家事を率先してやるお父さんになりつつある。男は外で仕事、妻は家を守るというスタイルを良しとしてやってきたはずなのに……。『自衛官の妻はひとりでも家を守るべき』と思っていたのは間違いだったかなと思い改めました。自分が意固地だったというのは、それも含まれます。その時その時ある形で臨機応変にスタイルを変えて、夫婦で力を合わせていくのが正解だったかもしれないってね」
ヨキが一尉の顔をじっと見つめて、なでなでしてくれる間はずっと尻尾を振っている。
彼の手が離れると、ヨキは寿々花の足下に戻ってくる。
撫でるためにかがめていた姿勢からベンチに座り直した一尉が、ジョギング用のポーチからスマートフォンを取り出した。
「個人的に、または、上官のお嬢様としていざというとき用に、連絡先をもらってもいいかな」
軟化した一尉から、どんどんと寿々花に近づいてくるようでびっくりするし戸惑うしかない。
「もちろん。一方的に申し出ているのであって、寿々花さんが嫌なら……」
「いえ、お願いします!」
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