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母親である彼女は、館野一尉には会いたくないのか合わせる顔はないのか、札幌までついてきて宿泊先にいるらしいが、駐屯地まで訪ねることはないとのことだった。
ママがいなくてぐずっているのかな、どうなのかな。でも本当のお父さんに会う時は機嫌良くしていてほしいなと寿々花は思い、その男の子に笑いかける。
「戦車が行進をするの。ヘリコプターも飛んできて、そこから自衛隊さんが、レスキュー隊員みたいにロープだけで降りてくるのよ」
「戦車、くるの。ほんとう?」
「うん。大砲(空砲)も撃ってくれるから、大きな音でびっくりしないでね。お耳を塞げば大丈夫」
やっと男の子が笑顔になり、手を繋いでいるお祖母ちゃんを見上げた。
閲覧行進では、旅団長は高官が座る席で閲覧するので、副官の館野一尉も父のそばに控えていなければならない。その間、招待客の観覧席で息子さん一行に付き添うまでが、寿々花と堂島陸曹の役目。その後、館野一尉に引き渡し、そこでエスコート指令は完了となる。
閲覧行進が始まると、男の子は身を乗り出して元気いっぱいになった。
お祖父ちゃんとスマートフォンで撮影をして『すごい、すごい』とおおはしゃぎに。
ヘリコプターから降下する隊員のデモンストレーションにも目を輝かせ、予告通り、戦車の空砲の衝撃的な音に身を縮めていたが、その後は大興奮で目をキラキラさせていた。
自衛隊大好きは本当かもと、寿々花はほっとしていた。
堂島陸曹も既婚者ゆえ、子供の扱いも慣れていて、エスコートは滞りなく終わりそうだった。
閲覧行進が終わりかけたところで、館野一尉が姿を現した。
式典ゆえに、正装でモールも肩に飾っている凜々しい男が寿々花がいるところまで。
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