1276人が本棚に入れています
本棚に追加
「堂島陸曹、伊藤士長、ご苦労様でした。交代いたします」
敬礼をした男の輝かしい姿に、寿々花は惚れ惚れしていた。
やっぱり素敵。すごーくかっこいい。
こんな最高の姿を息子さんはどう思うかなと……。すぐに緊張も襲ってきた。
元は義両親だったはずの夫妻が席を立ってお辞儀をする。
「本日は不躾な申し出を聞き入れてくれて、ありがとう。将馬君」
「ご無沙汰しております。今日はご招待をありがとう」
親しげな口調の元義父の様子から、元々ご縁があった間柄が伝わってきた。
「拓人くん、お祖父ちゃんのお友達の自衛隊さんよ」
どうして自衛隊の知り合いがいるのか。そう説明されているようだった。
五歳の男の子が、祖父母の前に押し出される。
館野一尉が制帽のひさしから、あの冷めた視線を男の子に降ろした。
男の子も見知らぬおじさんがやってきて、きょとんとしているが、視線が合った。
堂島陸曹も寿々花の隣で緊張しているのがわかる。
大人たちにとっては緊迫の一瞬だ。
「こんにちは。なるさわ・たくとです。自衛隊大好きです」
冷たい視線の男がそのまま黙っている。
でも寿々花は見てしまう。きっと堂島陸曹も気がついている。
冷たい顔を保った男の目が熱く潤んでいることに。
最初のコメントを投稿しよう!