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彼が制帽を取り払った。
やわらかな微笑みを浮かべ、男の子の目線へと制服姿のままひざまずく。
「こんにちは。拓人君。館野です。これからおじさんが案内しますね。戦車に乗りに行ってみようかな」
「戦車に乗れるの!」
「戦車の操縦席も見られるよ」
「行く行く!」
「では、おじさんから離れないように。ちなみに、おじさんは自衛隊では『いちい』と呼ばれているんだ。『いちい』と呼んでください」
「らじゃー、いちい!」
「らじゃーを知っているんだ」
そこで自然と彼と息子の手が繋がれた。
あの一尉が制服姿なのに、きらきらした笑顔で、男の子と手を繋いでいる。
どうしよう。むり。泣いちゃうよ。
涙をぐっと堪えるのに必死だった。
堂島陸曹もおなじなのか、もうハンカチを片手に持っていた。
お祖母様も涙ぐんでいたが、お祖父様は複雑そうなお顔をしていたのが気になる。
初めてしあわせそうな背中を見せている一尉と男の子が楽しめるようにと祈って、寿々花は見送った。
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