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「館野一尉とお子様が手を繋いだ時に、私も感じました。初対面なのに、知らない大人の男性とすぐに手が繋げるとは思えなかったものですから」
未婚で子供がいない寿々花にはわからない感覚だった。
かっこいい自衛隊さんだから、息子くんも気を許しただけと思っていたのだが。でも、あの一瞬は尊いものだったと寿々花も感じている。
「そこが気になるんだよねえ。私としては」
父が唸りながら顎をなぞった。
堂島陸曹も父の唸りに同調するように、険しい眼差しになって黙り込んだ。
「父親なのに『パパじゃない人』として今更会わせて、なんにも起こらない、いままでどおりでいられるとでも? 館野が我慢していれば、いままで丸く収まっていたのに? あちらからわざわざ波風立てるようなことしてきてさ。ちょっとしたことで調和の歯車って狂っていくこともある。息子くんはまだ幼いからだませたとしても、いくら館野が我慢強くても、そんなに上手く行くものかな~ってね」
「将補に同感です」
既婚者だけの会話だなと、寿々花は黙って聞いていることしかできなかった。
秘書室からお茶が出てきたので、父と余計な戯言をかわしているうちに、堂島陸曹も和んできて、ちょっとしたお茶会になり、寿々花も旅団長室なのにくつろいでしまった。
今日は記念日なので父にとっても無礼講なのだと思うことにした。
館野一尉はいまどうしているのか。戦車と装甲車に乗せて、ヘリコプターの低空飛行体験もしているのか。お昼ご飯も食堂なのか出店なのか、拓人くんが気に入ったものを一緒に食べることにしていると聞いている。帰ってこないということは、うまくいっているのだろう。そう思いたい。
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