11.元義両親の目的

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 父のそばに控えていた寿々花も、堂島陸曹もヒヤッとした顔になっていたと思う。 『自衛隊の仕事を理解してくれる娘』の向こうに、『そちら様のお嬢様は自衛隊に理解はなかったですよねえ』と含んでいるのだ。  お父さんたら、狸ぽい。でもこれぐらいにならないと司令部の長にはなれないのかもしれないと、娘として初めて思えた。 「あのね、音楽隊もかっこよかったんだ」  お祖父ちゃんたちのバチバチした火花が散りそうな雰囲気の中、無邪気に拓人君が入り込んでくる。  一尉がまた笑顔で、寿々花へと向いた。 「案内してくれたお姉さんたちも、音楽隊なんだよ。今日、おじさんと一緒に見たマーチングの中にいたんだ」 「お姉さんたち、あの時、あそこにいたの!」 「こちらの旅団長の娘さん、髪が短いかわいいお姉さんはクラリネット。こちらの髪を結んでいる綺麗なお姉さんはフルートだよ」  かわいいお姉さんですと!! 紹介のための聞き心地が良い言葉選びとわかっていても、寿々花の頬が熱くなる。意外にもクールな美人系ママ堂島陸曹も照れている。 「ま、すこしお休みしませんか。秘書室からお茶をお持ちしますね」  父がそう言うと、いつも通りなのか、館野一尉がさっと動き出し秘書室へと消えていく。  父が座った向かい側に、鳴沢夫妻と拓人君が並んで座った。寿々花と堂島陸曹は父が座るソファーの後ろに立った状態で控える。 「自衛隊の一般公開は初めてですか」  先ほどまで寿々花と堂島陸曹と向き合っていた時は、気の良いお父さんの顔をしていたのに。やはり一尉の上官、父が旅団長の顔になっている。  北海道南地方の陸上自衛隊を統べる男の威厳が鳴沢の父にも通じるのか、気後れした様子で『はい』と力ない反応が返ってくる。
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