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「またいらしてください。ご一報くだされば、お孫様のためにいつでも準備をいたします」
「ありがとうございます」
「館野は優秀なので、将来も有望です。彼のためなら、私もなんでも力になるつもりでいます。私はいずれ去って行く身ですが、この国の防衛を強化するため、あとに継ぐ隊員に託すためにも、その隊員のバックアップの役割を残していると思っていますから」
館野は優秀、館野は必要。だから館野のためなら、陸将補の自分がいくらでも『味方になる』と父から釘を刺している。あ、これ。母と話し合ってやっているなと、寿々花は予測する。
だから父から『招待』をしたのだ。旅団長直々の招待となれば、特別席だって確保し放題。来賓としても特別扱い。館野一尉が案内すれば、そこらじゅうの隊員が気を遣ってくれたことだろう。
だが最後に挨拶に来てみれば、立派な司令部団長の部屋で、威厳ある陸将補との対面。ここで一尉がどれだけ立派な仕事をしているか見せつける作戦だったのかと勘ぐりたくなってくる。
そのせいか。鳴沢夫妻は居心地が悪そうだった。
「お昼ご飯はどうでしたか」
「はい。孫の希望で、隊員さんが出しているお祭りのようなお店で作っているものをいただきました。外のテントで一緒に。孫も将馬さんも楽しそうでした……」
今度は奥様が答えてくれたが、やはり表情は固かった。
そのうちに、館野一尉が一行の飲み物を揃えたトレイを持って、旅団長室に戻ってくる。
「拓人君はジュースがいいよね。リンゴジュースだけどいいかな」
「リンゴジュース好き」
紙パックのジュースを手渡して、夫妻の前にはグラスに入れた冷茶をキビキビした仕草で置いていく。父の前にも冷茶を置くと、父がソファーから立ち上がる。
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