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そこに館野一尉に座るように促した。父はそのまま、ネームプレートが置かれている旅団長デスクへと戻り座り込んだ。
鳴沢夫妻と館野一尉が向き合っていたが。どうしたことか話す様子がない。
拓人君だけが、紙パックのジュースをちゅうちゅうと吸ってご機嫌。それだけが救いのような空気感だった。
やっと口を開いたのは、館野一尉だった。
「ありがとうございました。とても楽しかったです。よい思い出にいたします。あとはつつがなく皆様でお過ごしください」
館野一尉に残っているのは、もう会話ではなく『最後の挨拶』だけのようだった。
鳴沢夫妻がどう出るのか。静かに黙っているままなので、もう今日はこれでお開きということで良いのだろうか。
しかし、徐々に鳴沢氏の表情が強ばってきていた。
奥様も緊張しているのか、口元を強く結んだままうつむいている。
「将馬君……。娘に会ってくれないか」
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