12.目が覚める

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「堂島君、早くつれていってくれ」 「はい。拓人君、自衛隊のコンビニに行ってみましょう。音楽隊の楽器も見せてあげるわよ」  音楽隊のママさんの言葉に、無邪気な笑顔を見せて、拓人君も『行きたい』と走り寄ってきた。  孫がそばにいることもかまわずに、大人の事情を繰り広げようとしているこの場から、父が早く遠ざけようとしている。寿々花も付いていかなくてはならない。彼女の配下として来たのだから。これから何があるのか知ることはできないが、あとで父が教えてくれるだろうか。そう思いながらも、拓人君を諭して退室しようとしている堂島陸曹に付き添い外に出ようとした。 「伊藤陸士長は、そのままここに」  父に言われ寿々花は驚き、立ち止まる。『しかし』と呟いたそこで、堂島陸曹に『あなたは残りなさい。将補のご指示よ』と、置いてかれた。  父のデスクのそばに控えるようにと指示をされ、寿々花もそばで静かにたたずむ。  そこから見える館野一尉の横顔は、普段人を寄せ付けない強い意志を見せるている時と同じものだった。  怒りのオーラが見えるようだった。息子会いたさに釣られて、なにかの交渉の場に引きずり出されたことに気がついたのだろう。いや、予測していたが、そうであって欲しくないという願いが打ち砕かれて怒っているのだろう。 「おっしゃっている意味がよくわからないのですが、私と彼女のことについてならば、弁護士を通して話し合いにするお約束ですよ。今回は拓人に会えるというので承知しただけですが」  急に冷たくなった口調も、寿々花がはね除けられた時以上に鋭利あるものに変貌した。  父は黙って離れたデスクから見守っている。ここを離れる気はないようだ。
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