12.目が覚める

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 夫がフリーランスになり収入が激減、毎日自宅に居る。こちら親側で支援を続けているが限界がある。夫婦のすれ違いが起こり、婿養子として同居していた婿が帰ってこなくなった。子供が寂しがっている。たぶん離婚になると思う。と、鳴沢夫妻が交互に捲し立てた話は、そんなことらしい。  ほんとうに。今更何様だと寿々花は驚愕している。  ひとことで言えば、図々しいだった。父が徐々に怒りを蓄えている様子も、そばにいる寿々花にひしひしと伝わってくる。  ひととおり黙って聞いていた館野一尉だったが、鳴沢夫妻が静かになったところに、ひとことだけ言い放った。 「弁護士を通してください。彼女には二度と会いたくありません」  鳴沢夫妻が落胆の表情を揃えた。  いや、当たり前でしょうと寿々花も心で言い捨てたいが、ほんとうのところは、館野一尉が望む環境が整うならば、息子のために無茶な要望を飲み込むのではないかと不安だった……。 「将馬君、会うだけでも……」 「お願いします。拓人と毎日会えるようになるのよ。今日だってあんなに楽しそうにパパのあなたと――」 「パパと呼ばれる男は自分ではありません。一日ではなれるはずもない」 「わかっている。君が父親になる瞬間も時間も奪ってきた。だが取り返せる、拓人がまだ幼いいまなら間に合うと思うんだよ」  ひたすら元義両親をまっすぐに見つめている館野一尉の顔は、男でもなんでもなく自衛官のままだった。凜々しく誇り高く、孤高に生きてきた彼そのもの。 「では。お父さん。教えてください。それを答えられたら考えます」 「なんだろう。なんでも答える。拓人のことか、娘のいまの気持ちのことか」 「娘さんと、あなたたちが、私から奪った物を全て答えてください。いますぐ、ここで。ひとつ残らず」
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