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「あとは、拓人が成長する節目にまとめて、弁護士を通して本人に渡します。これにてあなたたちは信用できなくなりましたので、拓人本人へ送金し使用するための代理人を立てたいと思います」
「待ってくれ将馬君、そういうことではなくて」
「彼女が会いたいと? そこまで来ているのに、大事なことを伝えに来たのはお父さんとお母さんで、相変わらず自分ひとりではなにもできない。そうでしょう。どうして彼女自身が来なかったのですか。まだ離婚もしていない状態で、会ってほしいとは何事ですか。夫にそばにいてほしいはずだったのに、今度は安定した収入がほしい、ですか。結局、俺であっても、夫の彼であっても同じだったということですよね」
彼の口調が荒くなる。徐々に抑えが効かなくなっているようだった。
「館野」
父の声がひとことだけ、重く響いた。館野一尉も口をつぐみ、じっと黙り込む。
震える唇を噛みしめ、目を瞑っている。心の波をなだめ、元の落ち着く位置であるニュートラルポジションに精神を立ち返らそうとしているのがわかる。精神すらも鍛錬され訓練されてきた自衛官のメンタルを見せつけられる。
彼が目を開ける。
「これ以上は、弁護士へお願いします。本日は以上です」
だが、鳴沢夫妻はテーブルに額がつくほどに頭を下げ、『会うだけでも』と食い下がる。
そんな元義両親を見て、館野一尉が何故か微笑んでいる。
「俺、目が覚めました」
鳴沢夫妻が再度顔を上げて見た館野一尉の笑顔に、ちょっとだけ気が緩んだのかホッとした顔をした。
「ずっと息子のため、それだけと思ってきたのに。目が覚めました」
そんな憑きものが取れたかのような清々しい笑顔で、彼が鳴沢夫妻に再度告げた。
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