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旅団長室を出て行く時、彼がドアを開けたそこで、室内へと振り返った。
「伊藤陸将補、自分のために、ありがとうございました」
父が『いいの、いいの』と手を振って、さっさと行くように彼を促す。
彼がドアを閉めると、父と二人きりになった。
「さてと。そろそろ、あちこち終わりの時間かな」
「お父さん、あの……」
父がデスクから立ち上がり、窓辺へ向かい寿々花に背を向けた。
まだ民間人や隊員で賑わう外を見つめている。
「あとは彼と話したらいいだろう。とっておきの話を、本気でこんなところでするもんか。そんな話はふたりきりの時にするものだよ」
少なくとも。寿々花の気持ちは、父にも母にも知られているとわかった瞬間でもあった。
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その後、館野一尉がどのようにして鳴沢夫妻を見送り、息子の拓人君と別れたのか。寿々花にはわからなかった。
夕方になると、賑わっていた駐屯地も静かになった。
音楽隊での解散ミーティングを終える。堂島陸曹から『あちらのご両親、すごい不機嫌そうに拓人君を引き取りにきてね。二度と来るもんか――なんて私に言うのよ。なによ、あれ』と再び憤慨していた。館野一尉が後のことはすべて引き受けるからと、堂島陸曹も従ったとのことだった。
『また二人だけで、じっくりと話しましょう』と、陸曹と飲みに行く約束をすることに……。
とりあえず自宅に戻って、母と話そう。
駐屯地内のコンビニで、お疲れ様デザートを選んで、レジ袋片手に外に出る。
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