13.アカシアの甘い日

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 空は青いのに、雲は茜に染まっている。  そんな空を見上げて、穏やかな眼差しの館野一尉が呟いた。 「目が覚めました。馬鹿みたいです。自分のために生きていきたくなりました」  今日、元婚約者一家の有様を知り、館野一尉がいままで『あちらに都合良く扱われても、父親としての責任は果たす』と背負い込んできたものを、降ろすことができた報告だと寿々花は思った。 「でも……。拓人君のことはどうされるのですか。あちらのいまの状況ですと……いままでどおりに健やかな毎日でいられるか心配です」 「もちろん、拓人のことはこれからも最善の道を歩めるよう見守るつもりです。それでも、拓人がいま、あちらの旦那さんを父親と思っている以上はしゃしゃり出るつもりはありませんから。どうなるかはわかりませんが、弁護士と相談をして、むしろ彼女より父親である彼と話合ったほうがいい気がします」 「拓人君を引き取ることはできないのですか」 「大人たちの勝手な勢いで事を進めることだけは避けたいと思っています。それから謝ります。あの人たちに去ってほしくて、寿々花さんを引き合いに出したことを……」  ああ、そうか。謝りに来ただけなのか。待っていてくれたのは……。そうだよね。それだけだよね。  わかっていたから寿々花も、微笑み返す。 「いいえ。ご自分たちの要望が通るまで居座りそうでしたから、致し方ないです。そばにいることでお役に立てたのなら」 「いえ、まあ、確かに引き合いに出してお手伝いさせてしまったのですけれど。それはあの時の作戦というだけで……。その、だから、自分のために生きたいと思って、頭に浮かんだのが、寿々花さんが最初だったというか……」
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