13.アカシアの甘い日

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「そうですか。まあ、目の前に居たので、最初にとりあえず女性の名前を言いたいと思って目にとまっただけのことですよね……」 「そうではなくて。好きに生きていいなら、寿々花さんと、その、ふたりきりになりたいと。そう思ったのも本心です」  寿々花は眉をひそめる。すぐには意味がわからなくて――。  すぐに響かない寿々花の様子を見て、館野一尉が少し残念そうな顔をして、肩の力を落としている。彼がもう一度、深呼吸をして寿々花を見下ろした。 「寿々花さん」 「は、はい……」 「あなたとふたりきりになりたい、制服を脱いで、階級も忘れて、俺のそばで眠ってほしい、目覚めて欲しい。そう思っているということです」  制服を脱いで。一緒に眠って、目覚めて。ふたりきりになりたい。  やっとすべてがどのようなことか伝わり、寿々花の身体が一気に熱くなってきた。さらに気恥ずかしくなってしまい『きゃーっ』と顔を覆いながら、ふたり一緒に座っているベンチで彼に背を向ける。 「あの、その、わたし……あんまり男性とお付き合いしたことなくて。いえ、ほんとうは、初めてです! わけのわからない子供みたいな女ですよ。アラサーにもなって!!」 「え、そうなんですか。かわいいじゃないですか」 「えー! 扱いにくいかもしれないじゃないですか!」 「いえ、むしろ。俺が初めてなら、うんと大事にしますよ」 「でも、でも、でも」 「俺のこと、怖いですか」  寿々花は首を振る。いまはもう怖くなんてない。 「俺は。寿々花さんのことは、とても信頼できる女性だと思っています」  信頼できる。それが彼にとって、そばにいて欲しい人の条件とも言いたいらしい。
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