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2.父の副官さん
母に報告すると案の定、悲鳴に近い声を上げられ驚かれた。
寿々花は怒られなかった。だが母は、そろそろリードを買い換えようと思っていたのに、足の怪我で先送りにしてた自分の管理の甘さを責めに責め、気落ちしたようだった。
助けてくれたランニングの彼に会いたいとまで言いだした。でも通りがかりの人だったし、でも公園でランニングをしているぐらいだから、また会えるかもしれない。会えたら必ず母のお礼も伝えるし、できれば連絡先をきいておくと言って、寿々花は母をなだめた。
朝食の時間。それを聞いた父も仰天していた。
「それはいかん! わかった、今日、仕事が終わったら父さんがリードを買ってくるからな」
ダイニングテーブルで娘と妻と一緒に食事を始めた父が意気込む。
父がそう言ってくれたので、母もやっと心が落ち着いたようだった。
「しかし、ヨキ。そんなに足が速かったのか」
よっ君の本名は『ヨキ』。ただ単に母が『ヨーキー(ヨークシャーテリア)だから、よい子よき子のヨキ君ね』と名付けた。そのまま愛称が『よっ君』になってしまったのだ。
父の足下そばにあるワンコお食事処で、ヨキもドッグフードをもぐもぐ食べている。父もヨキを可愛がっているので目を細めている。子供のころから強面な人だなと思っていたのに、最近は歳を取って丸くなったように寿々花には思えた。久しぶりの同居だから、余計にそう見える。
兄が一人いるが、末子の寿々花が独り立ちをして母の子育ては終わった。そのあとの寂しさを埋めるかのように、数年前に迎え入れたのがヨキだった。夫婦ふたりだけになって、可愛がってきたこともわかっている。まあ、父も数年で定年だからねと心の中で呟き、様子が変わったことをそう納得させた。
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