13.アカシアの甘い日

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 そのうちに、また彼が初夏の夕を遠く見つめている。寿々花も一緒に見つめた。 「この香り、あなたの香りになるんだろうな……」  アカシアの甘い香りがする夕風。  寿々花もそう思う。この匂いがすると、あなたの甘さを知りたいと告げた日を思い出すのだろう。 「制服でなければ、いまキスしたかったな。ここではちょっと、この姿ではね。まずは制服を一緒に脱いでみようか」 「そ、それってどういう意味ですか……」 「朝は、よっ君のお散歩で私服姿を知っているから、今度は夜、とかね」 「いきなり、そいうこと、言うんですか!」 「だから。貪る準備ってことで」 「いやー! 一尉の清廉そうなイメージ崩れちゃう!」 「俺だって、男ですから。甘いもの解禁。いままで禁欲してきたこと、一気に放出するから覚悟して」 「だから。私、初めてって」 「ということは、俺の好きなように教えられるってことか」 「もう、そんな一尉、いや!」  初めてのことに動転している寿々花を知って、また彼が笑う。  でも、いままでの微笑みと違う気がした。  寿々花だけの、愛おしさを秘めてくれたような?  その笑みに見とれてたら、彼の顔が近づいてきた。  一瞬だけ、いや少し押し当ててしばらく。彼のくちびるが、寿々花のくちびるに重なった。でもすぐに離れていく。 「人がいなかったから、やっぱり、好きになったご挨拶しておくな」 「……は、はい……」  もうダメ、心臓ドキドキ、頬は熱くて、目眩がしそうだった。  制服姿の素敵な副官さんから甘い印をもらっちゃった。  アカシアのかおりのキス……。 「まずは制服を脱いで、私服で普通の男と女になって。休暇のモーニングにドライブしようか」  夕の甘い匂いの風の中、寿々花も笑む。
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