1.育ての父親

1/5
前へ
/196ページ
次へ

1.育ての父親

 館野一尉と正式に『おつきあい』を始めて半年が経とうとしている。  北国の早い紅葉があっという間に終わり、小雪がちらつく季節になる。  銀杏やプラタナスの枯れ葉が舞う川辺そばの小さなカフェに、寿々花は彼と一緒にいる。  二人とも休暇だが制服姿。訳があって、休暇なのに制服を着てやってきた。  外を見ると、私服の父と母が、風で転がっている枯れ葉と遊んでいるヨキを見て楽しそうに笑っている姿が見える。  母が懇意にしている個人経営のドッグカフェ。今日は定休日ということで『話し合い』をするために、貸し切りにしてくれることになった。  約束の時間は午後二時。でも冬が目の前に迫ってきている北国の日暮れは早い。もう日が傾いてきて、(けやき)のテーブルに西日のような陽射しが強く当たっている。  ミニジープが一台、カフェの駐車場に入ってきた。  駐車した車の運転席から、背の高い男性が降りてくる。彼が後部座席のドアを開けると、チャイルドシートに座らせていた男の子を抱いて外へと降ろした。  仲良く手を繋いだ父子がカフェのドアへと向かってくる。  店のドアが開くと、彼らがひと組しか居ない客を見つける。 「いちい!」  小さな赤いダウンジャケットをしっかりと羽織っている拓人君だった。  制服姿の一尉を見つけて、輝く笑顔を見せてくれる。 「拓人君、また会えたね」 「こんにちは。こんどは、パパがいちいに会いたいっていうから、一緒に来たの」 「ありがとう。待っていたよ」 「あ、音楽隊のお姉さんも」 「こんにちは、拓人君。また会えましたね」  休暇なのにわざわざ制服で来たのは、拓人のためだった。  今日の名目は『パパも自衛隊さんに会いたいため』。ただそれは『拓人向け』に告げている名目だった。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1276人が本棚に入れています
本棚に追加