1.育ての父親

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 拓人にとって、実の父親である将馬はまだ『自衛隊のおじさん』でなくてはならない。一緒に来た男性は血の繋がりがなくてもまだ『パパ』なのだ。その区別をわかりやすくしておくために、将馬自身が『自衛隊のおじちゃんとしてわかるように行くよ』と決めたこと。婚約者になる予定の寿々花もおなじく制服で揃えてついてきた。  その『パパ』に、将馬も初めて対面することになった今日。  今後の相談をするために面会をする。これが大人たちの本日の目的だったのだ。 「鳴沢岳人(たけと)です。初めまして」 「館野将馬です。よろしくお願いいたします」  相容れぬ仲である男ふたりが、静かに頭を下げ合う姿。将馬のそばに並んでいる寿々花も、彼に倣ってお辞儀をして挨拶をする。 「館野とおつきあいをしています。伊藤寿々花です」 「音楽隊のお姉さんですね。拓人から聞いています」  落ち着いた大人の声と喋り方。表情も穏やかで、雰囲気も落ち着いてる男性。  もっと嫌な男性かと思っていたので、寿々花にとっては意外な対面となった。  ひとつ『パパさん』の特長をあげるなら、ものすごくお洒落。モデルばりの長身スタイル。栗色に染めた髪は軽くお洒落にパーマがかかっていて、着ている服もシンプルだがスタイリッシュ。羽織り物はこだわりがありそうなブランドのダウンコート、さらにヴィンテージぽいデニムパンツだった。  これはモテるなと寿々花もいいたくなる。顔の美しさでいえば一尉には負けているなとか思いつつ、充分に充分にお洒落イケメンパパだった。  その男性と将馬が向かい合って、さっそくテーブルについた。  将馬のとなりには寿々花が、鳴沢パパの隣にはちょこんと拓人が座った。
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