1.育ての父親

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 将馬の婚約を壊した一人だから、(ろく)な男じゃないと寿々花は構えていた。  また現在の婚姻関係悪化により、妻である彼女を置いて家を出て、帰ってこなくなった男というイメージでも構えていた。  しかし鳴沢パパ、もとい『岳人パパ』にも事情があったようだ。 「あちら、鳴沢の両親と彼女はどうしていますか」 「ああ。相変わらずですよ。もう娘のしあわせが第一。あちらの両親がいう『娘のしあわせ』というものが『娘の理不尽な我が儘で世界が回るように手助けをすること』ですからね」 「はあ、わかります」  ふたりの男が揃ってため息をついて、顔をしかめている。  これも寿々花には意外で、男同士通じている不思議な光景であった。  岳人パパがさらに続けた話は酷いものだった。  三ヶ月ほど前になって急に『あんな男に似た子供などいらない』と母親である彼女が言い出したらしい。  実父である将馬に返すとか言い出し、岳人パパが『奪っておいて今更返すなんて拓人は物ではないし、館野さんにとっても理不尽で無責任すぎる』と諭そうとしたら、『それなら父親のあなたが責任を持って育てろ、拓人を連れて出て行け』と突きつけられたとのこと。  なにそれ、なにそれ――! と、離れて聞いている寿々花の腸が煮えくりかえってくる。  館野一尉がどれだけ長い間、血の繋がりがあることだけを気にして息子を思ってきたことか。養育費だって彼が『自分の気持ちだから』と義務を果たしてきたのに! 今度は血縁ではない父親に押し付けようとしている!?
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