2.操れない男

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「もう、うるさくてうるさくて。外に集中できる仕事用の部屋を自分で借りたんです。そこで仕事をしていたら『帰ってこない』ということになっていて。いつのまにか俺に内緒で、館野さんに会いにいっていたんです。しかも、いままで一度も会わすまいと固持していた拓人との対面も『こちらから申し出た、もう会わせた』と事後報告でひっくりかえりそうになりましたよ」 「そうでしたか。いきなり娘に会ってくれと言われた時、夫の岳人さんはこのことを知っているのかどうなのかと思っていましたが……。やはり事後報告でしたか……」 「その仕事部屋に、いま拓人を避難させています。在宅ワークで良かったです。子供の世話をする時間もありますし、むしろ、いままでも俺のほうが拓人に手間をかけていましたから。妻はいつまでもお嬢様なんですよ、お嬢様でいたい女なんですよね。子供も俺と祖母である姑がめんどうをみられたので、彼女は表面上だけ素敵な妻、素敵な母、素敵な女性であれば良かったので。それもあって、彼女が面倒をみないなら、在宅ワークで時間を作って拓人の世話をしようと考えたのも、フリーランスに切り替えたきっかけでもありましたね」  ここ五年、岳人パパも婿養子として一生懸命にやってきたが、かなりの苦労をしてきたことが窺えた。  そこで、婚約者だった将馬が不思議そうに尋ねた。 「彼女、なにもしないんですか……?」  岳人パパは致し方ない笑みを浮かべため息を吐く。 「家の中に子供がふたりいるようなかんじですよ。大きな娘と幼い男の子がいるってかんじです」 「あの、自分も見抜けなかったところですが……。それは結婚されてからわかったということですか」
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