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「お母さんの散歩だとゆっくり歩くだけだから、若い寿々花が一緒に走ってくれて張り切っちゃったのかしら」
「うーむ、走る寿々花を追い抜き、ヨキに追いつくほどに走れる男か。うん、会ってみたいな」
「じゃあ、明日、お父さんも一緒に散歩に行くの?」
「いや、平日はやめておく。今度の休日だな」
「わかった」
父もランニングの彼にお礼を言いたいそうだ。
「ふたりともそろそろ時間よ」
母に促され、父とともに寿々花も急いで食事を終える。
やはり、整った母の朝食を食べられるのは至福だった。実家住まいの利点、しばらくはご厄介になろうと寿々花はほくほくと朝食を終える。
与えてくれた自室で寿々花は制服に着替える。
白いシャツ、紫紺スラックスをはいて、紫紺のジャケットを羽織る。
自室の姿見で寿々花は身なりを確認する。
寿々花の仕事は、陸上自衛隊の音楽隊隊員。クラリネットを担当している。
近所にある『陸上自衛隊真駒内駐屯地』にある『北部方面隊音楽隊』への転属となった。
前勤務地は香川県にある『陸上自衛隊善通寺駐屯地』。部隊内にある『第14音楽隊』の所属だった。
温暖な瀬戸内の穏やかな気候につつまれて、二十代前半はそこでがむしゃらに自衛官として音楽演奏者として精進してきた。
次はどこの勤務地かなと思ったら、生まれ故郷の札幌だった。
父と母もいまそこに、母方祖父母が住んでいた一軒家で過ごしている。
今日も紺の制服にきっりちと身なりを整え、楽譜を確認して鞄にしまう。
部屋を出てリビングに入ると、父も支度を終えてドアそばにある姿見で身だしなみを確認中。
父も同様、身なりには重々気をつけている。毎朝、そうしている父を見て寿々花も育ってきた。
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