2.操れない男

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「弁護士から急に『鳴沢家から子供を引き取って欲しいとの申し出があり、さらに岳人さんとの離婚を望み、親権でも揉めている』と伺ったので、一度、父親同士で話し合えないかと弁護士から連絡をとるようお願いしました」 「助かります。離婚については俺側も弁護士を入れる予定です。それで親権については、あちらが手放すのなら、今後どうするかと思っています。実父である館野さんのお気持ちを聞きたいです」  寿々花は、将馬の気持ちをもう聞いていたから、黙って控えている。  制服姿の彼の表情も決意でかたまっている。 「引き取りたいと思っています」 「ですよね……。ですけれど、俺もいまは手放す気はないんです」  血縁はないのに。母親が放り出しても、育ての親である彼も、いまは拓人といたいという。  それでも、将馬はほっとした表情に崩れた。彼がどうしてその顔をしたのか、寿々花は知っている。 「よかったです。岳人さんがそのように拓人を大事に思ってくれる方で……」 「これでも、本当の息子と思って、責任持って育てるという決意はしていましたから。ですが。鳴沢の家とは縁を切りたいと思っています。これ以上は、付き合いきれません。妻はもう拓人を要らないといっているので、心変わりしないうちに、こちらで手はずを整えたほうがよろしいかと思います」  岳人パパは鳴沢氏と養子縁組をしたが、それも離婚にともない解消する手続きを申請するとのことだった。  あちらの義父も娘と娘婿が決裂したのなら、娘ひとりに財産を残したいがために相続の権利を婿から剥奪したいはず。だから素直に解消してくれるはずだと、岳人パパは予測しているらしい。 「鳴沢のお父さんは、孫の拓人のことは、どうするつもりなのでしょうか」
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