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「ああ……。娘をとるか、孫をとるかになっていて右往左往していますが。娘を取りますでしょうね。拓人はまだ放り出しても、俺と館野さんが育てられる、金銭的にも大丈夫と思うでしょうし。でも娘は我が儘を言うだけでなにもできないのだから、可愛がってきた父親としては、無力な娘を無一文で放り出せないのでしょう。一人で生きていけない女ですよ」
そこでやっとマスターがコーヒーをみっつ持ってきてくれる。
なので男ふたりが一度黙り込んだ。マスターは離れた席に居る寿々花のテーブルにも置いてくれる。
「パフェ、どうしますか」
男親の大事な話し合いとわかってか、マスターが外で楽しそうに遊んでいる拓人の姿を窓越しに見た。
彼らも、ヨキとたわむれている息子を見て、やっと微笑ましいと見つめる顔を揃えている。
「あと十分、お願いします。そのあと彼女が呼びに行きますので」
「わかりました。それぐらいに仕上げます。ごゆっくり」
制服姿の将馬にそう告げると、マスターは静かにカウンターへと去って行く。
二人が揃って姿勢を正した。残り十分であらかたの話をまとめようと、男二人が身を乗り出す。
「親権は実父である私が譲りうけるつもりでいますが、だからとてすぐに『お父さんだよ』という強引なやり方は避けたいと思っています」
「俺もそう思っています。血が繋がっていないからバイバイ。今日から自衛隊さんがお父さんだよは、母親と祖父母に捨てられた五歳児には負担が大きすぎます。もちろん、いまならわけがわからないうちに受け入れられるという人もいるでしょうけれど。俺には無理です」
寿々花はひとり、ほっと胸をなで下ろしている。
良かった。育てのパパが誠実な人で良かったと。
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