3.パパのおともだち

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3.パパのおともだち

 父親同士の方向性は定まった。  この日までに、彼が手際よく、迷いなく準備をしてきたことを寿々花は思い出す。  札幌に転属してきてから、寿々花は久しぶりの実家住まいを続けているが、休日は彼のマンションにお邪魔するようになった。  彼の住まいの質素さを見た時、寿々花は改めて孤高に生きてきた男の寂しさや哀しさを感じたものだった。『拓人のためだけに生きていく』と決意していた館野一尉の姿が、暮らしにも深く浸透していたことを知ってしまったからだ。  彼の部屋に、寿々花は調理器具、コーヒーメーカーなどを持ち込んだ。  母に教わった料理を作ったり、または母が持たせてくれた惣菜を手土産に持っていったり。食器も好きで集めていたものを持ち込むと、急に食卓が華やいだので、館野一尉が驚きおののいていた。  暮らしのものだけで、そんなに日常の彩りが変わるのかと――。  そんな『やさしい日常』を寿々花は心がけている。  彼とのささやかな休暇を重ねている時、弁護士から連絡が入ったのだ。 『寿々花、拓人のことだけれど……』  寿々花にもすぐに相談してくれた。  育ての父親に会うこと、養育費は今後も払うことなど、とことん話あった。  だが今後は、自分たちが結婚をして生活していくことも念頭に置いて、息子を育てることについて、彼がどう『意識を変えるか』も、きちんと考えてくれていた。    いままでは。『息子のためだ』と独身であることを自ら望み、だからこそ自分のことより息子へと養育費を多めに送っていたと、寿々花にも教えてくれる。
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