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だがそんなところも、将馬は今日までに、あらかたの対策を講じていた。
とにかくスピーディーに行こうとキビキビと物事を決めていく決断力を、寿々花はそばで見てきた。
「いえ、弁護士に聞いたところ、拓人をあっさりと手放したのも『再婚のための婚活をはやくしたい』とのことで、岳人さんともはやく離婚したいようですね。どうせ鳴海の父と母は、娘のいいなりで振り回されて余裕がなくなるでしょうし、そちらに必死になっているいまなら、こちらが望む形で法的に固めることができそうです。それから、親権を放棄しても彼女が母親である以上、こちらも養育費を請求できます。まずそれを要求し、おそらく『嫌だ』と言い出すと思うので、養育費免除の条件として、私たち父親と親族と、拓人に対しても『きつめの条件を入れた接近禁止』に同意してもらう作戦にしたいと考えています。そうすれば法的効果が発生しますから、そこを手早くいまのうちにやってしまいましょう」
躊躇いのない作戦に、岳人パパも表情が明るくなる。
「お、いいですね。となれば、すぐに動かないと。あ、俺、館野さんが札幌にいる間は、こっちに住もうと考えているんです。許していただければ……ですけど……。婚約破棄の原因になった男ではあるんですけど……」
本来なら許せない男のはず……。
寿々花は将馬の表情を窺う。でも、彼は、ここ最近よく見せてくれるようになった穏やかな目をして、僅かに微笑んでいる。
「もう充分です。拓人を、健やかに育ててくださったことで充分です」
彼の心の楔がひとつ抜けた瞬間だと、寿々花には思えて……。ひとり滲みそうになる涙を堪えていた。
それは岳人パパもおなじなのか。胸の重しがなくなり、罪深さから解放されたのか、彼も目を潤ませていた。
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