ナス女、の巻

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 それならばもう、これ以上考えることなんかなにもないじゃないか。  これで終わり、だ。  私はまた明日から、普段どおり生活すればいいのだ。  ……そこまで考えたとき、目の前のスマホがラインを着信した。  取り上げて見ると、同じ派遣会社に所属する女の子からだった。  現場も同じ渋谷の会社で、ふだんからわりと仲良くしてる。  なんだろう、と思って確認すると、今週末、「合コン」の予定があるんだけど、アッコちゃんも来ないか、というものだった。    ……合コン。  ふだんなら、まず何も考えずに、断るところだった。  というのは、元来私は、あの手の集まりが、あんまり好きじゃない。  大学は女子大で、当時も誘われて、何度か他大学とのそれなんかに出たこともあったけどーーどうにもあのフンイキが肌に合わなくて、以来すべて断ってきたのだ。  就職してからも、それは基本的に同じだ。  なんだろう、あの向かい合わせにズラッと並んで、無意識下では実は冷静に厳密に品定めし合っているという、あの感じがなんとなく、我慢できないのだ。 「……」  でも、しばらくして考え直した。  なんだか最近、ほんと気分がしてる。  まずは当然、あのイミフなネギ女たちとのことがあった。  ……それと、淳とのことだ。  前回あんなひどいことを言われ、このままじゃダメだ、そう思いなおしたばかりだ。  私はいまこそ、彼から自立するべきなのかもしれない。  だったら当然、淳以外の男性に、目を向けてみる必要が、出てくる。  それに近頃ーーずっと家に引きこもりがちだった。  休日の日でも、まず夜中に出歩くことなどあり得なかったことは、もうわかってもらえるだろう。それでも、もしどうしても近所のコンビニなどに出かけなきゃならないときは、当然のごとく一本のゴボウをたずさえていった。  むき出しのゴボウを一本、エコバッグに必ず差してくる自分を見る、店員さんのあの引いたような冷ややかな視線にもーーそろそろもう自分は疲れ始めていた。  そのうち昼間でも、外出するのがおっくうになる。おかげで部屋の中も、たった二、三日で閲覧注意レベルの汚さになる。  そこでいったい、何をしているのかといえば、本棚からなんとなく、昔取った杵柄(きねづか)の日本文学全集を取り出して、読んだりしているのだった。  私は大学で、日本文学を専攻していた。平安時代の女流日記文学を、卒論テーマに選んだ。  卒業してからこっち、読み返すことなんてまったくなかったけどーーなぜだか最近、ふとそんな気分になっている。  頭は寝癖でボサボサ、洗濯のしすぎで毛玉のついたユ○クロの黒のスウェットの上下で、堅あげポテトとかいちごポッキーとかをえんえん食べ、ファンタオレンジを飲みながら、  嘆きつつひとり寝る夜の明くる間はいかに久しきものとかは知る  なんていうのを読んでいることに、私は少々うんざりし始めていたのだ。  このままじゃきっと、なにかが腐っていってしまう。  だったら、お酒でも飲んでパアーッと騒いだりした方が、心の平安のためにもいいんじゃないだろうか。
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