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乾杯から引き続いた、お定まりの自己紹介タイムの間に、料理が次々と運ばれてきた。
そのいい香りが満ちてくると、自然にこちらのテンションも、だんだんと上がってくる。
ああなんか、ほんとこういうの、久しぶり。
そんなことを考えてると、マスカットサワーを飲みながら、隣の真美が、しきりに肘でこづいてきた。
「……ねえ。ちょっと全員イケメンじゃん。今日はあたりだね」
私は軽く咳払いして、自分の柚子酒に口をつけた。
「……」
……まあ、確かに。
言われてみれば、そうかもしれない。
取り皿の上のだし巻き卵に大根おろしをのせながら、私はあらためて、その男性陣を見回してみた。
全員、判で押したようなジャケットにパンツのスタイル。
履いてるズボンが短パンかそうでないか、靴がローファーかスニーカーか、インナーがTシャツかボタンシャツかポロシャツかーーくらいの違いしかない。
清潔感は、一応みんな、備えてはいる。
思うんだけど、たぶんきっと男性の世界には、「清潔感警察」なるものが存在していてーーここぞというときには、それに逮捕されないようビクビクして気をつけているんじゃないだろうか。
そんな私の、男性陣を一人一人観察する視線が、順ぐりに目の前に座っている一人の男性と、ふと合った。
「……」
その人の、控えめだけど、ジッと集中してくるような視線を、私はさっきからずっと感じていた。
無理して場を盛り上げようと、サムい感じに頑張るでもなく、といってジットリと居心地悪く、雰囲気が落ち込んでいく、ってわけでもない。
そんな風に、場は和やかに進んでいった。
いい感じにお酒も入って、みんな一様に顔を赤らめてる。
やっぱり合コンって、幹事の人の性格、というか、「プロデュース力」みたいなものが、大いに反映されるように思う。ミキちゃんの穏やかで大人な感じが、とてもよく出ていた。
料理も美味しかった。私は生まれて初めて、金目鯛のお刺身を食べた。ブリのかま焼きも、わさび醤油で食べた常陸牛のローストビーフもぜんぶ美味しかった。
「大貫さん」
二杯目の柚子酒を注文したところで、正面に座る、さっきの男の人がそう話しかけてきた。
「あっ。はい」
私はなるべく、挙動不審にならないよう気をつけた。
いや、ほんとこういうのーー久しぶりなもので。
一様に爽やかな(それはいくぶん、強迫神経症的だ)男性陣の中で、その人はワシャッと無造作にパーマのかかった髪型が印象的だった。黒縁のメガネをかけてて、黒ジャケットの下の、インナーのTシャツの絵柄が「ブラックジャック」であるのをーー私は見逃さなかった。
武田 駆っていいます、って確か、その人は言っていた。
仕事は確か、広告関係がどうのこうの。
そのとき、カバンの中に入れておいたスマホがラインを着信した。取り出して見ると、いつのまにか隣の席を外していた、真美からだ。
なんだろうと思ってみると、
【その人たぶんあんた狙いだよ】
と、その文面にあった。
私は小さくため息をついた。
【大きなお世話っ】
【だってその人オタクだもーん。ねえなにあのジャケットの下のTシャツ。超キモー】
駆って人は、私がスマホをいじりだしたので、話しかけるのをやめていた。レモンサワーを飲みつつ、残ってたブリかまのお肉を箸でほじくり出してる。
話しかけられたことを自分が迷惑に思っている、とでも誤解されそうで、ちょっとソワソワしてきた。
【あんたも同じオタクであることをオタク同士するどく見抜いたんだよ。相手してあげな】
【私はオタクなんかじゃありませんっ】
日頃から思っていることだけど、この世の中には、「清潔感警察」「かわいい警察」「空気読めない警察」などのほかにーー「オタク警察」なるものも存在してはいないだろうか。
この駆って人は、さっそくそれに逮捕されてしまったようだ。
でも、私はべつに、キモいとは思わなかった。
むしろ、オシャレなんだと思うけどな。
その絵がもしドラえもんならば、ちょいアウトな気はするけど。
と、そのとき、
「……スマホいじって、無視してるよ。えっらそうに何様?」
という声がーーどこかから聞こえたような、そんな気がした。
私は一瞬ハッとして、周囲を見回した。
ミキちゃんは、目の前に座っている男の人と、楽しげに喋ってる。
真美はまだ、トイレから帰ってきていない。
って、ことはーー。
すると真美が、すました顔で席に戻ってきた。そして正面にいる、羽賀研二Ver 2.0、みたいなメンズと会話し始めた。
私は通路側の席に座っている、あのおかっぱの女の子を見つめた。
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