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「私の名は、シオン」「君は?」
「私は、雨降りのノア」
ーーーーーーーーー
シンシンと雨が降り注ぐ、私と貴方の間に、透明な壁を作るように。
「……あぁ」
──なるほど、そういうことか。
私は理解した。
『貴女は私と同じだ』
そう言った彼の言葉の意味を。
私は、彼の言っていた意味が分からなかったのだけれど、今なら分かる。
だって、その通りなのだから。
「……ねぇ、シオンさん」
──この人は、きっと、誰よりも優しい人なんだろうな。
「どうしました?」
彼は、どこまでも澄んだ瞳でこちらを見つめてくる。
私は、そんな彼に問いかけた。
「私が……私たちが、貴方たちの敵じゃなかったら、どうします?」
それは、きっと私の願望だったのだと思う。
もしも彼らが、本当に良い人たちだったら。
私たちは、仲間になれるんじゃないかって。
だから私は、そんな質問を投げかけた。
「もし、そうなら……」
そして、彼は答える。
「その時は、一緒に食事でもしましょうか」
とても穏やかに微笑んで、彼は答えてくれた。…………。
「ふふっ、あはは!」
私は笑ってしまった。
だって、こんなにもおかしいことはない。
彼らは、きっと私のことを知らない。
なのに、どうしてそこまで信じられるのか。
──いや、知っているのかもしれない。
だからこうして、優しくしてくれるのかもしれない。……それでもいい。
例え、それが嘘であっても構わない。
ただ、私は嬉しかった。
この世界で、初めて信じてもいいと思った“ヒト”に出会えた気がして。
「…もう…」「時間のようです…」
彼は、わざとらしく切ない顔で告げる。
「」
「それじゃあ、また会いましょうね!」
その前に何か言いたげだった気がした。
私は、あえてその前の言いたげな言葉の意味を問いかけずに笑顔を向けた。
「…また会いましょう!シオンさん」
「お気をつけて」
別れ際に、お互いに手を振り合う。
「さようなら」ではなく、「また会いましょう」と言ってくれたことが、何より嬉しいと感じた。
雨に阻まれ、私は彼の世界には行けない。
雨のカーテン越しに去り行く背中を見つめていた。
甘酸っぱい想いが溢れてくる。キュンと狭くなる胸の内を感じて動揺している。
「いつか、必ず迎えに行きますからね?」
そっと呟いた言葉は雨音に掻き消されていった。
終
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