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第4話
◇◇◇◇
「明日、遠出するの?」
「んあ? ああ、課長のたわごとか。何だ、何処か行きたいのか?」
「うーん。何処って訳じゃないけど、僕らってちゃんとデートしたコトってないよね?」
「男二人でデート、なあ――」
食事を終え、リフレッシャも浴びてさっぱりとし、シドの自室のリビングでホロTVのニュースを視つつ、コーヒーを飲んでくつろいでいた。
着ているのは色違いでお揃いのパジャマだ。シドがグレイッシュホワイトで、ハイファが紺色である。しっぽを解いたハイファの髪が背に金色の滝を作っていた。
続き間のキッチンを背にした独り掛けソファがシドの定位置、ロウテーブルを挟んだ壁際の二人掛けソファがハイファの定位置、ひょんなことから飼うハメになったオスの三毛猫タマの定位置はシドの膝の上という、普段通りの図である。
オフの時間の殆どをハイファもシドの部屋で過ごすのが、今では当たり前になっていた。
煙草を咥えてオイルライターで火を点けながらシド、
「デートなんかロクな思い出が……あ、いや」
言いかけて失言に気付き、紫煙で深呼吸を繰り返した。年季の入ったポーカーフェイスは崩さない。だが人をダマすスペシャリスト、スパイの目は誤魔化せなかった。
「デートのたびにストライクかあ。それってキャッスルと? それともミッチェルとかな。ううん、ロレーナ? ケイティ? パメラ?」
「何だってお前は人の古傷をそこまで知ってんだよっ!」
「貴方を知るコトが僕のライフワークでしたから」
「スパイは随分とヒマだったらしいな」
「イイエ。取っ替え引っ替え、七人も八人もと付き合ってた貴方には及びません」
「……何だ、お前。妬いてんのか?」
ずずーっとマグカップのコーヒーを飲み干してから、ハイファはじんわりと若草色の瞳でシドを睨んだ。
「妬くのは当前でしょ!」
「もうお前だけだって、知ってんだろ」
「それでも。僕のいない間に貴方と時間を共有したんだよ? 僕は貴方の時間を全て自分のものにしたい。取り返せない分も、全部」
「欲張りだな」
「欲張りだよ、悪い?」
真剣な面持ちのハイファは頬を紅潮させている。
「泣くなよ」
「泣いてないっ!」
煙草を自動消火の灰皿に放り込み、シドは立ち上がった。突然放り出されたタマが「フーッ」と唸り、ぽとりと着地する。ロウテーブルを回り込んでシドがハイファの腕を取った。強引に立たせて寝室へと引っ張ってゆく。
「約束だ、こい。泣くならこっちで鳴け」
「って、TV点けっ放し……」
「ンなモン、あとでいい」
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