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敵を殺せ……だと?
物騒なことを言う少年。だが、そのにこにこした顔には邪気があるようには見えない。
「敵を殺せって……」
「そうだよ」
相変わらずのにこやかな顔。本気なのだろうか?
「そう簡単に言うけど、僕にはできないよ。だって、相手も同じ人間で、上からの命令で戦わされているだけだろうし……」
「きみ、敵も同じ人間だと思ってるの?」
「違うのか?」
「そう、敵は人間じゃないんだよ。敵は全員悪魔。本当のB国の人間は、みんな悪魔にやられてしまって、いないんだ。だから今、B国の人間だといっている連中は、人間になりすました悪魔だよ」
「そんな……」
にわかには信じがたい話だ。
「信じられないと言うのなら、今戦ってるB国の兵士を見てみるといいよ。そろそろ本性を現してるころだから」
「……それでも、僕にはできない。僕は弱虫なんだ。剣なんてからっきしだし」
「きみ」
「何?」
「本気で言ってるの?」
「ああ」
「きみは自分の力を知らないようだね。試しにその剣を抜いて振ってみな」
腰に差してある剣を抜き、振ってみる。
驚くほど軽い。少し前までは重たくて上手く使いこなせていなかったのに、信じられない。
「……」
「信じられないって顔してるね。でも、それがきみの力だよ。きみは、本当は強いんだ。さあ、敵を倒そう。そして、生き延びるんだ」
少年は明るい表情でそう言っているけど、まだ腰を上げる気にはなれない。
「まだ不安そうな顔してるね。けど、ぼくがそばにいるよ。だから、さびしくなんかないし、こわくもないよ」
「でも、それだと君も危ないよ」
「大丈夫。ぼくの姿はきみ以外には見えないし、それに、だれがどんなものを使っても、ぼくに触れることはできない。だから、大丈夫だよ。さあ、立ち上がろう」
「その言葉、信じていい?」
「もちろん!」
少年が元気よくうなずくと同時に、僕は立ち上がった。なぜかわからないけど、彼の言葉を聞いていると、元気が湧いてくる。
「さあ、敵を倒そう!」
「おーっ!!!」
僕は岩陰から躍り出た。
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