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彼の証言
夏の終わりの夕暮れのこと。
男性アイドルバンドT.Z.B.のコンサートが行われるアリーナホールは、開演を待つ女性たちでごった返していた。
買い込んだグッズを抱えて席へ急ぐ人、待ち合わせた相手と話し込む人、そしてトイレの長い行列でそわそわしている人。
イケメンアイドルバンドT.Z.B.はファンの九割が女性だ。俺はその貴重? な一割なのだった。
アイドルとは言え、T.Z.B.は作詞曲ともメンバー自身でやってるし、演奏の技量も付け焼き刃じゃない、本物だ。
アイドルだから曲調はキャッチーで聞きやすいんだけど、油断してると不意にドスンと重い曲が来て驚かされる。
シングルとして売り出されるのはあくまで軽い耳に心地よいラブソングなんだが、アルバムには時折ファンをざわざわさせるようなディープな曲が収録されていたりする。そんなギャップに気付いてしまったら、もうすっかりはまっていた。
チケットは毎度争奪戦で、アリーナホールの外では一縷の望みをかけてチケット譲渡を求める人たちがプラカードを掲げて立っている。
俺はその争奪戦を勝ち抜いて運良く手にしたチケットを握りしめ、会場に駆けつけた。
女性ばかりのライブ会場で男一人はかなり悪目立ちするが、気にしてはいられない。
彼女は居ないし女友達なんて誘ったら、気があるとか勘ぐられそうだ。
慣れると一人参加は気楽でいい。終わったら真っ直ぐ帰って自宅でその日のライブを反芻しながら一杯やるのが最高だ。
もうすぐ開演で着席を求めるアナウンスが会場内に流れる。
俺は席につく前にトイレを済ましておくことにした。
こういう会場では男子トイレが非常に少ない。
ここでは一階のみが男子用で、二階三階は女子用に替えられている。
その貴重なたった一つの男子トイレも、「今日だけ男!」という女性客に個室を使われていて、今も全ブース扉が閉まっていた。
やれやれ、ほんとに男は肩身が狭い。
溜め息をつきながら、がら空きの小便器の前に立つ。
用を足していると、不意に駆け込んできた人物がいた。
女性だ。わりと可愛い。
こんな若い可愛らしい子まで、「今日だけ男」になっちゃうのか。
まあ、時間も時間だ。きっとそうせずにはいられないのだろう。
見ない振りをしてやるくらいには俺も大人だ。
彼女は全ブース扉が閉まっている個室を見て、絶望的な呻きを漏らした。
そのままそこで待機姿勢に入り、どうやら空くのを待つつもりのようだ。
俺は、空気ですか、そうですか。
ちょっとしゃくに障ったので、わざと大きな放水音をたててやった。
用を足し終え、前を閉めようとしているその時、一つ向こうの小便器に立つ人が居た。
お、仲間か、と思ってチラリと見やると、そこに居たのはなんと、さっきの女性だった。
え?!
思わずイチモツを仕舞うのも忘れて横目で見ていると、彼女は小便器に背を向け、ペロリとスカートの尻を捲ると、ショーツを下ろして白い尻を晒した。
硬直して声もない。
その俺の横で、彼女は軽く脚を開いて立ち、尻を突き出すような中腰姿勢になる。
そして、放水を開始した。
女の子って、あんな風に出るんだな、と感心していた。
前じゃなくて後ろに飛ぶんだ。
まるで白桃の如き白い艶やかな尻から、見事な勢いで黄金色のジェット水流が噴き出し、小便器をけたたましく打ちつけた。
ジュイィィィーーー!!
ビタビタビタ!!
凄い音がしている。
おしっこジェットの推進力に乗って彼女がこのまま前に飛んで行ってしまう、そんな妄想がふと脳裏をよぎり、思わず込み上げた笑いを必死にこらえる。
見ているこっちが気持ちよくなってしまうような、素晴らしく景気のいい放出っぷりだった。
チィィーー……
放水が終わりに近づき、勢いを失った彼女のおしっこが真下に垂れ、やがて止まる。
ちょっと小便器からはみ出したようだが。
彼女は既に手に持っていたティッシュで股間を素早く拭うと、あっという間にショーツを引き上げ服装を整え、入口脇に据えられたゴミ箱にティッシュを突っ込んで出て行った。
開演五分前のアナウンスが流れる。
彼女が残した床の雫を見て、俺は感慨に浸っていた。
素晴らしいエンターテイメントを見た思いだった。
ライブ、もうどうでもいいかも。
ボーッとしていたら、いつの間にか人の姿が消え、やがて会場が音楽に包まれた。
始まっちまった。
すっかり忘れていたイチモツを仕舞うのに、もう数分の時間を要した。
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