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「わかりました。では、これに僕の白い薔薇を足せばいいのですね」
「お願い」
左手に黒と白の薔薇を持ち、右手を添える。息をゆっくりと吸い、曄途は個性の花である白い薔薇を出した。
光と共に一輪の白い花が右手からゆっくりと出され、黒と赤の薔薇に重なった。
――――――――カサッ
「あれ?」
「ん?」
「交わらない…………?」
出てきた白い薔薇は黒と赤の薔薇に入り込むことはなく、カサカサと音を鳴らすだけ。何度か重ねるが結果は同じ。
「なんで? 私達の時は重なったのに」
「新たに作り出さないと出来ないとかではないですよね?」
「え、マジ?」
三人が顔を見合せていると、人の声が微かに聞こえ始めた事に気づく。
「っ、女神の効果が切れたんだ」
「まずい、早くしないと!!」
一華と曄途が焦る中、優輝は冷静に右手を前に出した。
「さっきの、やるしかねぇ。三人で同時に薔薇を出すぞ」
優輝の言葉に二人は力強く頷いた。
三人は右手を前に出し、頷き合う。準備が整ったこと確認すると、一華が代表して音頭を取った。
「行くよ。三、二、一!!」
一華の音頭に合わせ、三人は一斉にそれぞれの色の薔薇を光と共に出した。
三人の薔薇は中心に花咲き、重なり合う。すると、強い光が放たれ、突風が吹き荒れた。
吹き飛ばされそうな一華を優輝が支え、曄途は地面を踏みしめ耐えた。
「何ですかこれ!!」
「耐えろ!!」
突風が三人を襲い、吹き飛ばされないようにするので精一杯の三人。何とか耐えていると、薔薇を包み込んでいる光から、黒、赤、白の薔薇の花びらが舞い上がり始めた。
「っ。これは――――」
「これって、優輝!!」
「あぁ、成功したらしいな」
曄途が舞い上がる花びらを見上げ目を輝かせ、一華が優輝に向けて笑みを浮かべる。
二人が見た、先程の光景と同じ。舞い上がった花びらは、三人を労うように星空を舞い踊り、中心の光は徐々に落ち着き、中からは三色の薔薇が姿を現した。
「これ――――あっ」
一華が薔薇を見た後、二人を交互に見る。すると、自然と三色の薔薇は淡い光により空中へと浮かぶ。
上へと舞い上がった赤と黒、白の花びらを追うように三色の薔薇は街を見下ろせる高さまで上がると、四方に飛び散った。
流れ星が落ちているような光景に目が奪われる。
三色に光る花びらが街に降り注ぎ、辺りを明るくした。
先程まで殺伐としていた街は静かになり、警察や教師達、街人は星空から降り注がれる光に目を奪われていた。
「これで、個性の花は無くなるんだよね?」
「女神が言うにはな」
「なら、これで優輝は嘘をつかなくても良くなるね」
満面な笑みを浮かべた一華に見上げられ、優輝は唇を尖らせ顔を逸らし、頬をポリポリと掻く。
照れている彼を横目に、曄途は面白そうに笑った。
「素直なのは大事ですよ、黒華先輩」
「黙れ」
二人の会話を見て、一華はお腹を抱え笑い出した。
彼女の笑い声を聞き、二人はお互いにらみ合うが、すぐに笑いが込み上げ一緒に声を上げ笑いだした。
その時、一華は思い出したかのようにポケットからある物を取り出し、優輝に渡す。
「そういえばこれ、路地裏で拾ったの。毎日つけているから大事な物なのかなって」
「ん? あ、これか」
一華が取り出したのは、リング状になっているピアス。
優輝がそれを受け取り、お礼を言って耳に付けていると、一人の足音が聞こえ始めた。
三人が音の聞こえた方に顔を向けると、そこには、一人の燕尾服を着た男性が、ぼさぼさな白髪交じりの髪を、ぐしゃぐしゃと掻きむしりながら立っていた。
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