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優輝が歩いていると、花壇が目に入る。そこには芽が出たばかりの草花が風に揺られ踊っていた。
誘われるかのように優輝は一度足を止め、花壇へと向かう。
前でしゃがみ、右手を花壇に添える。数秒、そのままの態勢で止まっていると、突如空笑いを漏らし立ち上がった。
「馬鹿らしいな。もう、俺は普通の学生だ」
笑いながらまた歩き出すと、途中で呼び止められ振り向いた。
「黒華君! 重たい荷物があるの、手伝ってくれない?」
「あ、はーい」
一人の生徒が優輝に向かって手を振っている。近づくと重たそうな段ボールが隣に置かれていた。
今日は気温が高いため、長そでを着ていた彼は腕まくりをし重たい荷物を運ぶ。
色白の腕には、無数の切り傷の痕。もう薄くなっているが、完全に消えてはおらず残ってしまっていた。だが、今の彼は理解ある友人や教師に囲まれている為、無理に隠す事はしていない。何かを隠そうとすると、すぐに一華に気づかれてしまう為、今では隠し事すらしていなかった。
荷物を指定された場所に置き、額から流れ出る汗を拭う。
「ありがとう、黒華君」
「いえ、これは男の仕事なんで。また何かあれば頼ってください」
それだけ言葉を交わし、女子生徒は去って行く。
残された優輝は、透き通るような青空を見上げ、風により揺れる黒髪を抑える。すると、ちょうど校舎の中、窓側に座る一華が見えた。
気づいてくれないかなぁと見上げていると、タイミングよく彼女が優輝を見つけた。
優輝が笑顔で手を振ると、一華も笑顔で返す。
頑張れと、口パクで言えば、一華は頷いた。
幸せを感じていると、いきなり優輝に向かって突風が吹き荒れ、咄嗟に黒い髪を抑え吹き荒れた方向を見た。
目にゴミが入らないようにとしていると、微かに頬に何かが触れる感覚。目を開けると、赤い薔薇の花びらが目の端に移る。
目を開き振り向くが、先ほど見えたはずの赤い薔薇の花びらはない。
目を丸くし瞬きをしていると、自分に呆れ口角を上げた。
「さぁて、俺は食堂でひと眠りでもすっかな」
背中を伸ばし、優輝は今度こそ食堂に向かった。
彼を見送るように、光に包まれた赤い薔薇が風に乗り、天へと舞い上がる。
透き通るような青空は、花鳥街にいる人達を明るく見下ろし、宝物のように輝かしい光で包み込んでいた。
青空に一つ、女性のような形をしている白い光が映り、街を見下ろし微笑んだかと思えば、周りにいる子供のような形をしている白い光と共に姿を消した。
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