プラセボの花

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 以前からも時々、飯には行っていたが恋人のフリをし始めてからその頻度は増えた。増えたと言っても二人に何かある訳ではなく、ラーメン屋や会社近くのファミレスで仕事や適当な話をして帰るだけだった。一緒にいる時間が前よりも少し長くなっただけ。そう、ただそれだけ。  2回目の隣駅のカフェのカップル限定スイーツを目の前にして、葉月がこちらにジト目を向けてくる。 「お礼のおかわりとか聞いたことないんですけど、戸川さん」 「意外と期間が長いからな。あと昨日ラーメン奢ってやったろ?それでイーブンだろ」  もう一度このスイーツを食べたかったので葉月にお礼のおかわりを要求した。文句を言いつつも奢ってくれるらしい。 「そのテンションで甘いもの好きとか意外すぎますよね、戸川さん」 「好きなものに理由なんてないだろ?」 「あら、お熱いんですね。それが恋愛への発言だったら素敵ですけどぉ……」  言っている途中で驚いた顔をする葉月。そしてこそこそとこちらに小声で囁いてくる。 「チャンスです。戸川さん」 「何がだよ」 「あれ」  そう言って葉月が指差す。そちらを見るとこの元凶の高橋が同じ店に入っているのが見える。 「チャンスなので、手を繋いでもらえますか」  突然の訳のわからない要求に焦って聞き返す。 「はぁ?手?なんで?」 「簡単に恋人っぽく見えるからですよ」 「そんなことする必要っ……」  異議を唱えようとすると、葉月が無言でテーブルの上のスイーツを指差す。 「ぐっ」  苦しいが、スイーツが目の前にある以上、要求を飲まざるを得ない。渋々向かい合う彼女の手をテーブルの上で指を絡ませて握ってみる。  手を握ってみると触れ合った皮膚から熱を持った温もりが伝わってくる。彼女の手は俺の手に比べて随分と温度が高いようだ 「戸川さんの手、冷たいんですね」 「心があったかいと手が冷たいって言うからね」 「じゃあ、よく聞くその話しは嘘ということですね」  くすくすと笑いながら葉月も手を握り返してくる。皮膚から伝わる熱が増す。 「それが人に物を頼んでいるやつが言う言葉かよ」  誰かの温もりは久しぶりでこんな風だったかと思い出す。求めてはいなかったはずなのに、それを心地良く感じてしまっている自分がいた。
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