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 昼時ということもありレストランは盛況だったが、タイミング良く二人席が空いたので僕たちはあまり待たずに座ることができた。 「うわあ美味しそう!」  運ばれてきた料理に彼女は感嘆の声を漏らす。  彼女はチキンソテープレート、僕はトンカツ定食を注文したが、どちらも美しく盛り付けられておりレベルの高さが瞭然だった。料理は見た目から、というやつか。 「いただきまーす」 「いただきます」  味も絶品の料理を頬張っていると、ふと壁に掛けられたボードに目が留まる。  そこには外国人の写真と文章が載っていた。見出しには『家畜を芸術へと昇華した男』とある。  空牛薬の開発者だ。アメリカ人らしい。  小さな文字の文章を読み進めていくと、彼の台詞が引用されていた。 『私はただ牛を守りたかった。それだけです』  その意味はよくわからなかった。どうして牛を空模様にすることが守ることに繋がるのか。  ともあれ彼のおかげで空牛は誕生し、今も世界中で『命と自然を掛け合わせた芸術』として広く親しまれている。  僕らが楽しめているのだって彼のおかげだ。   「でも信じらんないよね」 「ん、なにが?」 「空牛ってお肉も全部青いらしいよ」  ソテーを口に運びながら彼女は声を潜めた。  その話なら知っている。空牛は体表だけでなく血液の色も青く変わり、それゆえ肉の色も真っ青になるのだ。 「昔は牛を食べてた時代もあったんだって。びっくり」 「ああ、特に若い牛が美味しかったって」 「ええ? わかんないなあ」  彼女はべ、と舌を出した。牛肉の画像でも思い出しているのかもしれない。  確かにあれは食事時に思い浮かべたいものではなかった。 「なんであれ見て食欲湧くんだろ。ほんっと不思議」 (了)
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