信仰者の苦悩

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「前世でそんな目にあったのに、それに教義は偽りだと分かったのに何故また信仰を?」  不思議そうに聞いたリサに老女は微笑んだ。 「教義が偽りだなんて、そんな事はありません」 「でも生まれ変わりはあるんですよ」 「記憶があるからといって自分が前にも生きていたという証拠になるのでしょうか」 「え?」 「戦争で地球には悲しみや恨みの意識が充満してしまいました。その意識が救いを求め、生まれた赤ちゃんに取り憑いただけかもしれませんよ」  もっと生きたかった、争いのない人生を送りたかった。そんな亡霊たちが人間に取り憑いたのかもしれない。そんな考え方もあるのかとリサは驚いた。 「今必要なのは祈りです。彷徨える魂を癒す祈りです。みな祈りを忘れてしまったのです」  老女は正面にある十字架に手を合わせた。 「そして神はおられます。奇跡はあるのです」 「というと?」 「全世界を焼き尽くすほどの核戦争。それにも関わらずこの教会は無事に残ったのです」  リサは驚いて教会内を見回した。建物も椅子も机も木だ。今こんなに贅沢に木を使っている建物はそうはない。椅子や机は使い古され表面は滑らかで光ってさえいる。復元されたものだとばかり思っていた。 「この辺は戦火を免れたのですね」 「いえ、この教会以外の家は全て焼け落ちてしまいました。この教会だけが残ったのです」  そんな事があるのだろうか。俄には信じられなかった。
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