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断鎖師のお仕事
渋滞に巻き込まれ、約束の時間には間に合いそうにない。なのに運転しているユウは凉しい顔でタバコをふかしていた。
「もう、匂い付いちゃうから車では吸わないでっていったじゃない!」
後部座席で鏡を覗き込み前髪チェックをしているリサは口を尖らせていた。その唇には年齢にそぐわない真っ赤なルージュが引かれている。長い黒髪は頭頂部でひとつに結わえられ、黒い膝丈のワンピースは喪服を思わせた。
「まだ着かないの?」
「もうすぐですよ」
ユウは車内の空気を入れ替えようと窓を開けた。風がウェーブした栗色の前髪を揺らす。鬱陶しそうに細めた瞳は切れ長で一見冷たそうにも見える。
「遅れちゃうじゃない」
「その方が依頼者には嬉しいかもしれませんよ」
「私が行く前に逝っちゃうかもしれないじゃないの!」
ほどなく車は大きな建物に着いた。古ぼけた灰色の建物。入口の看板には「拘置所」と書かれていた。
ユウが車を玄関に横付けするとリサは急いでバッグを持ち、建物の中へ入っていった。まるで遅刻寸前の女子高生みたいだ、そう思いながらユウはフッと目を細めた。
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