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お金持ちという人生
車は大きな建物の前で停まった。
「なにここ、レストラン? ちょうどお腹空いてたんだ」
「依頼者宅です」
「え」
せっかくユウとご飯が食べられると思ったのにガッカリだった。その上あまり得意ではない個人宅での仕事。リサは思い切り唇を尖らせた。
「個人の依頼受けるなんて、どうしちゃったの?」
「もっと速い車に買い替えたくて」
「どうせなら防弾仕様にして」
「ですね」
2人が車を降りると、すぐに数人の使用人らしき男女が迎えに出てきた。
「遠いところわざわざお越しいただきありがとうございます。こちらです」
初老の男性がリサとユウを家に招き入れた。
玄関を入ると木の良い香りがした。それが檜なのか杉なのかリサには分からなかった。ただクアドラプル・ツーの核戦争で殆どの山林は失われた。現在殆ど材木は手に入らない。その材木をふんだんに使ったこの家の主は相当な資産家という事だけは確かだ。
でもそんな資産家が何故リサを呼んだのか。リサは不思議でならなかった。
「旦那様、断鎖師様がおみえです」
初老の男性が分厚い木の扉をノックした。すぐに中から品の良い老婆が現れた。
「ようこそ断鎖師様。よろしくお願いします」
老婆は深く頭を下げた。
部屋の中にはベッドに寝かされた老人がいた。酸素マスクをはめ、体中に管を付けられていた。枕元のモニターはゆっくりと老人の生を刻んでいた。
「お医者様からは今夜が峠だと言われています。間に合って良かったですね」
老婆は老人の手を取り優しく撫でた。
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