20人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
接触してくる人間
結婚式もできる豪華なホテルが今夜の宿だった。
「別にこんないいホテルじゃなくてビジネスホテルでもいいのに」
「大きなホテルはセキュリティがしっかりしてますから。それに国が宿泊費を出してくれるからね」
さっきの仕事でなんとなく沈んでいる心には、落ち着けるこぢんまりした場所の方が良かった。
「さあ行きますよ」
チェックインを済ませたユウが部屋の鍵を持ちエレベーターへと向かう。リサも後に続いた。
「12階です」
「うわっ、高っ」
ユウが階数のボタンを押した時だった。
「すみません、僕も乗ります」
スーツ姿の男性が乗り込んできた。男性は「13階」のボタンを押した。男性はユウよりも少し年上のように見えた。背はユウと同じくらい、でもユウより優しそうに見えた。大きな瞳がそう思わせるのだろう。
「ご兄弟で旅行ですか?」
男性が笑顔で聞いてきた。ユウは完全無視を決め込んでいる。リサは兄弟と見られた事にムッとした。
「兄弟なんかじゃないです」
「じゃあ恋人同士かな?」
「まさか」
「じゃあ……夫婦?」
真っ赤になって言い返そうとするリサをユウは押した。
「降りるよ」
リサをエレベーターから押し出しユウも降りた。後ろから「良い旅を」と男性の声が聞こえ、ドアが閉まった。
「もう失礼なヤツ!」
ふくれっ面でリサがブツブツ言っていると、ユウはすぐにエレベーターの下行きのボタンを押した。
「え? 階数間違えたの?」
「いえ。ホテルを変えます」
「え、何で?」
「リサに話しかけるヤツはみんな怪しい。危険人物だ。さっさと逃げましょう」
ユウはいたって真面目だった。1階につくとすぐにフロントへ行きチェックアウトをした。早足で外へ出ると車に乗り込んだ。
「今からだとビジネスホテルになると思いますが我慢してください」
「え……分かった」
思いがけずリサの望みは叶うこととなった。
最初のコメントを投稿しよう!