接触してくる人間

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接触してくる人間

 結婚式もできる豪華なホテルが今夜の宿だった。 「別にこんないいホテルじゃなくてビジネスホテルでもいいのに」 「大きなホテルはセキュリティがしっかりしてますから。それに国が宿泊費を出してくれるからね」  さっきの仕事でなんとなく沈んでいる心には、落ち着けるこぢんまりした場所の方が良かった。 「さあ行きますよ」  チェックインを済ませたユウが部屋の鍵を持ちエレベーターへと向かう。リサも後に続いた。 「12階です」 「うわっ、高っ」 ユウが階数のボタンを押した時だった。 「すみません、僕も乗ります」  スーツ姿の男性が乗り込んできた。男性は「13階」のボタンを押した。男性はユウよりも少し年上のように見えた。背はユウと同じくらい、でもユウより優しそうに見えた。大きな瞳がそう思わせるのだろう。 「ご兄弟で旅行ですか?」  男性が笑顔で聞いてきた。ユウは完全無視を決め込んでいる。リサは兄弟と見られた事にムッとした。 「兄弟なんかじゃないです」 「じゃあ恋人同士かな?」 「まさか」 「じゃあ……夫婦?」  真っ赤になって言い返そうとするリサをユウは押した。 「降りるよ」  リサをエレベーターから押し出しユウも降りた。後ろから「良い旅を」と男性の声が聞こえ、ドアが閉まった。 「もう失礼なヤツ!」  ふくれっ面でリサがブツブツ言っていると、ユウはすぐにエレベーターの下行きのボタンを押した。 「え? 階数間違えたの?」 「いえ。ホテルを変えます」 「え、何で?」 「リサに話しかけるヤツはみんな怪しい。危険人物だ。さっさと逃げましょう」  ユウはいたって真面目だった。1階につくとすぐにフロントへ行きチェックアウトをした。早足で外へ出ると車に乗り込んだ。 「今からだとビジネスホテルになると思いますが我慢してください」 「え……分かった」  思いがけずリサの望みは叶うこととなった。
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