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「そこ、僕の席です」
ユウが席に戻ってきた。
「これは失礼しました。良い旅を」
男性はスマートに立ち、ユウに会釈をして去って行った。
「何か話したんですか?」
「まさか! アイツ、私たちの後をつけてきた! 何アイツ!」
「リサの仕事の事を知ってるみたいですね」
「うん、これからお仕事ですかって聞いてきた」
「……全く、面倒な奴だ」
ユウはコーヒーを飲みながら考えているようだった。冷静な顔をしていたが、厳しい目をしていた。
仕事を終えるとユウは車を走らせた。
「今度は何処へ行くの?」
「涼しい方です」
しばらく走ると車は停まった。
「え、ここって」
空港だった。
「えっ、外国?」
「残念ですが、北海道です」
「北海道……」
外国でなくても北海道も初めてだ。色んな観光スポットや名物が頭に浮かんだ。でもどうせホテルと拘置所の往復で終わってしまうのだろうとリサは唇をへの字にした。
「宿は温泉旅館を予約しておきました。たまには温泉にでも入ってゆっくりしましょう」
への字の両端が上がりアヒル口になったリサ。思わず吹き出しそうになったユウだったが必死で我慢した。
飛行機ではもちろんファーストクラス。窓の外の景色を興味津々で眺めるリサ。いつも背中しか見えないユウが隣に座っている事もテンションを上げさせた。
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