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空港からはタクシーで宿へ向かった。町並みは戦前の様子を再現させてあり、リサは外の風景に釘付けになっていた。
「そこは熊牧場なんですよ。熊に餌をあげられたりするんです」
「熊!? あの獰猛な?」
「はい。餌を寄越せって手を叩いたりしておねだりするんですよ」
「えー! 信じられない」
「せっかく北海道に来たんなら行ってみたらどうですか?」
運転手に言われ、チラリと横を見る。ユウは目を閉じ眠っていた。
どうせ観光なんてさせてくれないと分かっている。それに誘拐されるのも嫌だしとリサは自分を納得させた。
それにしてもユウの寝顔を見るのは初めてかもしれない。そう思うと頬が緩んだ。
寝顔もきれいだ。まつ毛が長い。もしかしたら自分より長いかも、とユウのまつ毛に見入っていると突然ユウの目が開いた。
「あ、運転手さん。旅館の前に拘置所に行ってください」
「え!」
運転手の声は裏返っていた。若い男女がこれから拘置所に行くなんて想像もしていなかった。
「え、今から?」
「はい」
こんな時間に刑が執行されるのだろうか。聞いたことがない。せっかく楽しい気分だったのにとリサは唇を尖らせた。
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