命に関わる仕事

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命に関わる仕事

 それでなくても灰色の建物が、日の沈んだ薄暮の世界でなお一層暗く感じた。いつもは午前中に訪れるので仕事場くらいにしか考えていなかったが、夕方の拘置所はどこか不気味だった。 「遠いところお疲れ様です」  制服姿の男性が出迎えてくれた。リサとユウが通された所は所長室だった。 「わざわざありがとうございます。お疲れでしょう。お掛けください」  ソファを勧められ2人は腰を下ろした。所長と思われる男性は痩せていてシワと白髪が目立つ。刑務官は屈強な男性ばかりだと思っていたリサは少し不思議に思った。もう定年間近なのだろうか。 「で、今回のご依頼人はどなたでしょうか」  こんな時間に刑が執行されるなんて聞いたことがない。それともすぐにでも執行する必要がある凶悪犯なのだろうか。 「私です」 「……は?」  リサは所長を見た。何の冗談だとムッとした。 「実は私、今日で退職なんです。明日新しい所長が来るまではまだ所長なんですがね」  弱々しく囁くように所長は話した。 「定年まであと1年だったんですが、既に全身が病に侵され定年までは働けそうにありません。明日からは入院ですよ」  それでこんなに痩せているのかとリサは納得した。 「では明日からゆっくり治療なさってください。立派なお仕事を勤め上げたんですから私なんて必要ないですよね?」  リサがそう言うと所長は突然顔を歪め涙を流し始めた。   「どうか私を断鎖してください。もう生まれたくありません。もし生まれ変わってしまったら……私はおかしくなる。 この手で何人もの人間を殺してきたんです。死にたくないと暴れる囚人を無理矢理押さえ付け、その首に縄を掛けた。最後まで無実を主張していた人間を死刑台に送った。まだ小さい子どももいて成長を楽しみにしていた男に絶望を与えた。 私の罪は重すぎます。とても来世まで持っていけない」  所長は子どものように泣きじゃくっていた。まだ10代のリサの前で恥ずかしがる事もせずに。
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