断鎖師のお仕事

2/6
前へ
/36ページ
次へ
「遅くなってすみません!」  リサが通された部屋は一面真っ白な壁。正面には仏像が安置されていた。その仏像に1人の男が熱心に祈りを捧げていた。リサの声に一瞬体を震わせ、探るようにゆっくりと振り向いた。 「初めまして。断鎖師(だんさし)進堂(しんどう)リサです。よろしくお願いします」  リサがぴょこりとお辞儀をし微笑んだ。男は明らかにがっかりしていた。 「ここはお嬢さんの来る所じゃない。お父さんかお母さんは?」 「私が世界に1人の断鎖師です。私以外には誰にも断ち切れませんから」  自信に満ちた顔をしたリサに男は呆気に取られた。 「だって君、まだ高校生くらいじゃないのか?」 「今年卒業しました」 「……で、本当にできるの?」 「私にしかできませんってば!」  部屋の隅にいた刑務官がわざとらしく咳払いをした。急げと言いたいらしい。 「本当によろしいんですね?」 「ああ、頼む……いや、お願いします」  男はリサに向かい頭を下げた。覚悟はできているようだ。  リサはバックの中から小瓶を出した。蓋を開けると部屋中に甘く爽やかな香りが広がる。瓶の中身を手に注ぐとヌルッとした液体は虹色に輝いた。その液体をリサは両手に塗り込め合掌した。 「空から繋がれし鎖よ。その姿をあらわし給え……」  リサが両手の親指と人差し指で四角を作った。その小さな窓から男の頭上を覗くとーー。 「見えた!」  男の背後に鎖が見えた。空から垂れ下がっている2本の鎖は男の両肩に繋がっていた。まるで操り人形のようだ。  それは輪廻の鎖。全ての人間に付いていて、死ぬとその鎖が引き上げられ天に戻っていく。しかし今からリサはその鎖を断つ。男の輪廻を強制的に終わらせるのだ。男がそれを望んだから。もう生まれ変わりたくないと望んだから。  リサは男に向かって中指と人差し指で作った手刀をかざした。 「断!」  右上から斜めに手刀を振り下ろす。片方の鎖が切れた。 「鎖!」  今度は左上から斜めに切った。もう片方の鎖が切れた。もう男の背後に鎖は見えない。 「終わりました」  リサはバッグからタオルを取り出し手を拭いた。 「終わったんですか? 本当に? 本当に私はもう生まれ変わらなくなったんですか?」 「もう輪廻の鎖は断ち切られました。安心してお眠りください」 「……ありがとうございました」  男は深々とお辞儀をし、刑務官に連れられ隣の部屋へと入っていった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加