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「でも、それはお仕事ですよね。そのお仕事なくしてはこの世の秩序は保たれない。辛いでしょうが必要な仕事です。誰かがやらなければならない仕事です」
「本当にそうでしょうか。いくら悪人だとしても、生まれて来た事には理由があります。神様が許可なされたから生まれてきたのです。
人を殺したから殺してしまえというのなら、私も殺人犯です。
それなのに何故私は生きていられるのですか? 人を殺す行為は同じです。なのに何故……」
所長はきっと物凄く優しい人なのだろう。そんな優しさと正義感から刑務官になった。だからこそ心を蝕み苦しみ続けてきたのだろう。
「辛かったですね」
ユウの言葉に所長は声を上げて泣いた。既に精神は崩壊寸前のようだ。
「リサ、楽にさせてあげよう」
「……そうね」
ユウは部屋から出ていった。リサはバッグから小瓶を取り出した。
「本当によろしいんですね?」
所長はしゃくりあげながら「お願いします、お願いします」と呟き続けていた。
リサは小瓶の液体を手に出し両手に塗り込めた。
「空から繋がれし鎖よ。その姿を現し給え……」
リサは手刀を構え所長の上に振りかざした。
「断! 鎖!」
鎖は断ち切られ床に崩れ落ち、消えた。
「所長、終わりました」
「本当ですか? もう私は生まれて来なくても良いんですか?」
「はい。明日から安心して静養なさってください」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
所長はリサに縋り付き泣きじゃくった。リサは油の付いた手で所長の白髪頭を撫でてあげた。所長は泣きながら微笑んでいた。
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