信仰者の苦悩

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信仰者の苦悩

 空港を出ると、南国風の樹木が目に付いた。つい数時間前までとは風景がまるで違った。 「まだお腹の中でウニとホタテとイクラが泳いでるよ」 「それはそれは。北の魚介類たちに南国を楽しんでもらいましょう。リサ、長崎といえば何かな?」 「カステラ! チャンポン!」 「教会です」  食べ物しか思いつかなかった自分が恥ずかしかった。でもこの流れなら食べ物でしょ、とリサは口を尖らせた。 「でも、教会っていっても今は観光名所でしかないのよね」  昔は世界中にたくさんの信者がいたそうだが、今はいない。キリスト教には輪廻転生の概念はない。死んでまた人間に生まれ変わるなんて事はないと説いてきた。  しかし現在、ほぼ全ての人間が前世の記憶を持っている。生まれ変わりは実証された。なので教えは偽りであると判断され宗教とは認められなくなった。  しかし教会は芸術としての価値はあった。建物自体美しく、飾ってある絵画、彫刻も素晴らしい。美術的価値は大いに認められ、人類の宝とされ大切に保存されている。 「うわ……素敵。神々しいってこういう事いうのね」  空港からタクシーでリサとユウはとある教会へやってきた。三角屋根のてっぺんには十字架が乗せられていた。そして何より目を引くのは窓に嵌め込まれたステンドグラス。太陽の光に照らされ様々な色を放っている。 「中に入るともっと綺麗ですよ」 「中に入ってもいいの?」 「勿論。中に今回の依頼者がいますから」  そうユウに言われ、リサは観光気分から仕事モードに変わった。
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