20人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
信仰者の苦悩
空港を出ると、南国風の樹木が目に付いた。つい数時間前までとは風景がまるで違った。
「まだお腹の中でウニとホタテとイクラが泳いでるよ」
「それはそれは。北の魚介類たちに南国を楽しんでもらいましょう。リサ、長崎といえば何かな?」
「カステラ! チャンポン!」
「教会です」
食べ物しか思いつかなかった自分が恥ずかしかった。でもこの流れなら食べ物でしょ、とリサは口を尖らせた。
「でも、教会っていっても今は観光名所でしかないのよね」
昔は世界中にたくさんの信者がいたそうだが、今はいない。キリスト教には輪廻転生の概念はない。死んでまた人間に生まれ変わるなんて事はないと説いてきた。
しかし現在、ほぼ全ての人間が前世の記憶を持っている。生まれ変わりは実証された。なので教えは偽りであると判断され宗教とは認められなくなった。
しかし教会は芸術としての価値はあった。建物自体美しく、飾ってある絵画、彫刻も素晴らしい。美術的価値は大いに認められ、人類の宝とされ大切に保存されている。
「うわ……素敵。神々しいってこういう事いうのね」
空港からタクシーでリサとユウはとある教会へやってきた。三角屋根のてっぺんには十字架が乗せられていた。そして何より目を引くのは窓に嵌め込まれたステンドグラス。太陽の光に照らされ様々な色を放っている。
「中に入るともっと綺麗ですよ」
「中に入ってもいいの?」
「勿論。中に今回の依頼者がいますから」
そうユウに言われ、リサは観光気分から仕事モードに変わった。
最初のコメントを投稿しよう!