信仰者の苦悩

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 教会の中には年老いた女性がひざまずき祈りを捧げていた。ステンドグラスに描かれたイエス様の影が、女性を包み込んでいた。 「信者さん? まさか……ね」  信仰が禁じられているわけではないので信者がいてもおかしくない。しかし偽物だと分かっていて信仰する者は誰一人いない、はずだ。  子どもだって生まれ変わりがある事を知っている。死んだら天国か地獄、などという話も嘘だと分かっている。人間は死んだら生まれ変わる。それを永遠に繰り返すだけだ。  キリスト教の教えは全て嘘でおとぎ話だ。 「シスタークララ、ですか?」  ユウが老女に声をかけた。すると老女はゆっくりと顔を上げ振り返った。なんとも清々しく澄んだ目をしていた。 「ではあなたが断鎖師様ですか?」  断鎖師が来る事を知っているという事は、この老女が依頼者なのだろう。 「断鎖師はこちらの女性です」 「こんにちは。断鎖師の進藤リサです」  ペコリとお辞儀をしたリサを老女は嬉しそうに見つめた。 「遠いところありがとうございます。お疲れでしょう?」  大抵の人は断鎖師が若い女性だと知るとあからさまにがっかりした顔を見せる。しかし老女は違った。孫を見るような愛情に溢れた微笑み……いや、少し違う。尊敬や憧れの眼差しに近いかもしれない。 「依頼をされたからといって必ずしも施術するわけじゃありません。私が必要ないと思ったら何もせずに帰ります」  相手が老人だろうとリサはきっぱりと言った。 「ええ勿論。それも神様の思し召しです」 「……キリスト教の信者さんなんですか?」 「はい」  老女は誇らしげに返事をした。
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