信仰者の苦悩

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「ふふ。おかしなお婆さんだと思うでしょ? でも私は前世もそうだったんですよ。実際に自分が生まれ変わってるのに、まだ信じてるんです。ふふ……」  生まれ変わりを体験しているのに何故老女は信仰を持ち続けているのだろうか。リサは不思議でならなかった。 「私の前世の記憶、それはとても昔のものです。当時キリスト教は禁止され、弾圧されていました。信仰していると分かると処刑されてしまう時代でした。 それでも私たち信者は隠れてミサを行い、仏像の中に十字架を埋め込み祈りを捧げてきました。 でもある日役人がイエス様のお姿を描いた紙を持ってきたのです。信者でないと証明するためにこの絵を踏め、と」 「踏み絵ですね?」 「ええ。私踏めませんでした。すぐに捕らえられ十字架に縛り付けられました。そして処刑され、命を落としました」  リサは宗教弾圧について歴史の授業で習ったので少しは知っていた。昔は生まれ変わりはオカルト的なもので信じられてはいなかった。そのため死んだ後どうなるのか人々は不安に思っていた。なので皆宗教に答えを求めた。  善人は天国や極楽へ、悪人は地獄へ行く。だから悪い事はしてはいけないよと親は子どもに言った。不安の解消と躾の一石二鳥だ。  しかし現在殆どの人は生まれ変わりを経験している。死んだらまた生まれ変わるだけ。天国も地獄もない。ならば神も仏もない。宗教は無知な人間が安心して生きられるためのものでしかない。  それどころか宗教の対立で戦争も起きた。宗教は危険なものである。なくなる事が望ましい、と先生は言っていた。
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