断鎖師のお仕事

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「お疲れ様でした」  仕事が終わるとリサは車に戻った。こんな所に長居は無用だ。リサが乗るとユウはすぐに車を出発させた。 「別に疲れてなんかいないわ。ホイッ、ホイッってやっただけだもん」  リサは空中にバッテンを描いてみせた。 「たださ、ついさっきまで話してた人が今はもうこの世にいないって思うと、なんだかなーって感じ。全く面倒な世の中よね。前世を覚えてるなんて」  今の時代、人類の99%が前世の記憶を持って産まれてくる。そのため前世で極悪人だった人は一生その罪に悩まされる。罪を償おうと真面目に生きていても否応なく前世の罪が蘇り苦しむはめになる。前世の罪が他人にバレてしまったら最悪である。今世では何もしてなくても犯罪者扱いされる。そして前世の被害者にその事実が知られてしまったら、今世で恨みを晴らそうと付きまとわれたり襲われたりする。 「クアドラプル・ツーのせいですよね」  ユウのいう「クアドラプル・ツー」とは、西暦2222年の事である。その年、人類は核戦争で絶滅の危機に瀕した。それでもシェルターに避難していた者や、爆心地から遠い地域にいた人間が何とか生き残り、世界を再生させた。  シェルターにいた者は権力者や何かしらの優れた技術を持つ者たちだったので、世界の再生は思ったよりもスムーズに行われた。  しかしその数年後、世界各地で異変が起き始めた。生き残った者の子どもたちが、前世の記憶を持って産まれてきたのだ。  初めは核の後遺症か副反応かと思われた。しかし産まれてきた子どもたちは皆、核戦争のトラウマを持っていた。雷など突然大きな音がすると泣き叫んだ。核戦争を始めた国の権力者に対し恨みを抱いていた。亡くなった家族を悼んだり、どんなに苦しい思いをしながら死んでいったのかを語り始めた。 「核戦争で亡くなった人たちの恨みが強すぎて、みんな前世の記憶を持ったまま産まれてくるようになっちゃったんだよね」 「それで前世で核戦争を始めた国の権力者だった人たちは皆暗殺されたりしたんでしたよね」 「そう。前世の記憶があるってのも困ったものよね。まあ犯罪の抑止にはなるけどね」  来世のためにと人々はなるべく悪い生き方はしないようにしている。そのため犯罪率は物凄く少ない。それでも犯罪は起きてしまう。
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