信仰者の苦悩

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「はい。私は生まれ変わりはないと信じています。なので断鎖をしようがしまいが人は二度と生まれて来ないものだと思っています。 ただ死者の思念はこの世に残るのだと思います。それが生まれてきた人に取り憑いてしまう。それをみなさんは前世の記憶だと思い込んでいるのです。 私はそれを望みません。自分の残した思念が新たな魂の人生を左右させるのは良くない事です」 「でもシスターの思念が新たな魂についたら、その人も信者になるかもしれないですよね? その方がいいんじゃないですか?」  老女はゆっくりと首を振った。 「信仰は湧き出るものです。人に強制されたものは信仰ではありません。暴力です」  リサは呆然と老女を見た。自分の考えが180度ひっくり返った気がした。こんな考え方があるのだ。前世の記憶がない事に劣等感を抱いていたが、自分は他人よりも自由なのだと感じた。 「では、あなたの思念がこの世に残らないために断鎖を望んでいるんですね?」 「そうです」  老女は既に覚悟は出来ているという顔でリサを見つめた。 「本当によろしいんですね?」 「よろしくお願いします」  老女は胸の前で手を合わせ瞳を閉じた。既にユウはお御堂からいなくなっていた。  リサはバッグから小瓶を出し、中の液体を手に塗り込めた。 「空から繋がれし鎖よ、その姿を現し給え……」  リサは老女の輪廻の鎖を断ち切った。老女はリサに深くお辞儀をすると祭壇の方を向き、再び静かに祈りを捧げ始めた。
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